2012年10月31日

魔王の勇者


とある魔王と勇者のお話。






「……どうか、魔界との平和条約を締結してはくれないか」
 目の前に座るは人間界の王。そして、私は魔界の王。二つの世界は、遥か昔より戦争状態にあった。最早、どちらの世界にも余力は残されていないし、魔王の座を引き継いだばかりの私には、勇者はおろか一般人を殺める気力すら無い。あってたまるものか。その様な面倒臭い事に追われ、人生を浪費するとか馬鹿じゃないか。例えショウガクセイと嗤われようが、人生は常にイージーモードであるべきだ。そんなこんなで、私は人間界の王に和解を申し出たのだ。
「うぅむ……しかし、」
 人間界の王……長ったらしくて面倒なので、「人王」と略せば良いか。とにかく相手は、何やら渋っている。何故だ。互いの肩の荷が下りて、万々歳ではないか!
「何か問題でも?」
「いや……、これ以上の犠牲が出なくなるならば、それに越した事は無い。しかし、勇者が何と言うか……」
 うわっ、と、私は眉を顰める。今の勇者の噂は、私の所にも届いている。イケメンで、とてつもなく――
「ぅっ……くくくっ…………! あっははははははははは!!」
 王の傍に立っている男が急に爆笑し出し、私は思考を停止させる。何だこのキチガイ。
「引っ込め、クソジジイ。お前では話にならん」
 笑いを急に止めた若者は、一国の王をジジイと呼んで払う様に手を振る。おいおい……普通なら死罪ものだろう。ジジイも黙って従うなよ。お前が一番偉いのだろう。
「あー、何だっけ。人間界と、魔界が、平和条約? 魔王が来たと言うから、わざわざ俺から出向いてやったと言うのに、とんだ茶番だな。やっぱ殺すか」
 とか言うなり、獲物を構える若者。もしかしなくても、こいつは……
「止さんか、勇者! 確かに魔王討伐の依頼はしたが、和解を求める相手に手を出すなど……!」

 や っ ぱ り か !!

 イケメンで、とてつもなく性格が悪くて、無抵抗なスライムすら一匹残らず殲滅する、悪逆非道な勇者様。こいつがそうだと言うのか。
「和解っつっても、魔族がそれを守るとは限らないし、俺が嫌だ。魔王を倒したら魔界を支配させてやる。そう言ったのは何処の髭ジジイだ? 一国の主が約束を反故にするなど、臣民が知ったらどう思うか……」
 うわぁ……どっちが魔王なのか分からないや。参ったな、あはは。しかしこの勇者、楽しそうである。人王はと言うと、すっかり黙り込んでしまっている。どうやらこの国、国王より勇者の方が偉いらしい。
「さて、返事はしたぞ。どうする? 魔王様。出来るなら、今この場で全権限を委任して頂きたいのだが……嫌ならそれでも構わん。奪うまでだ」
「この、似非勇者が……!」
 これは本当に勇者か? 勇者と言うのは、国の為、世界の為に、命懸けで戦うものではないのか。
「似非? 酷いなぁ。俺はこの世界の事を案じているんだよ? 不安定で、醜くて、汚くて……この世界を救わずに、どの世界を救えば良い?」
 と、勇者は悪役の台詞を吐く。もうラスボスこいつで良いよ。寧ろ代わってくれ。と言うか、誰だこんな悪党を勇者に選んだのは。責任者出せ。厨二病認定は我慢してやるから。
「無言……って事は、交渉成立で良いのかな?」
「……一つ訊こう」
 あくまで冷静に問う。ただでさえ勝てる気がしないと言うのに、下手に刺激してキレられでもしたら、堪ったものではない。
「魔界を支配して、どうするつもりだ?」
 人王が小さく震え、勇者を見た。どうやら、奴も知りたい様だ。理由も聞かずに約束を……とは思うが、どうせ脅迫でもされたのだろう。ふむ、と、勇者は顎に手を当てた。
「どうしようかな……。悠々自適に過ごすも良し、魔界の復興に努めるも良し、魔族を従えて人間界に報復してやるも良し……ゆっくり考えるさ」
 待て待て待て待て。途中から人間の台詞じゃないぞ。何故お前が報復するのだ。わけがわからない。人王も俯くな、説明しろ。
「人間ってつまんねえよなぁ。ちょっと勇者って称号を貰っただけで、不自由全く無し。何をしても誰にも咎められない。ま、死ねって言われてる様なもんだから当たり前なのだが。厚待遇過ぎて逆にやる気失せるし、一人の人間に世界の命運を押し付けるか? 普通」
 お、おおぅ……。かなりストレスが溜まっている様だ。軽い調子で言うのが、これまた怖い。
「そんな訳で、俺と手を組むか死ぬか選べよ」
 何がそんな訳なんですかお兄さん! 私には分かりません!! 獲物を構えないで下さいよ!!
 ……そう、私は所謂チキンだ。面倒なのもあるが、戦闘は本当に駄目なのだ。魔王に任命された時はチビりそうになったなぁ……。そんな現実逃避をしながら、私は引きつった笑みを浮かべる。

僕と契約して魔王になってよ!

 咄嗟に出る渾身のギャグ。我が人生に悔い有り。でも死にたい。だが死にたくない。
「はいはい契約契約。じゃあな、ジジイ。俺が殺るまで死ぬなよ」
 軽く手を振り、勇者はさっさと部屋を出て行く。空気と同化していた人王は、深く溜息を吐いた。
「あやつにも困ったものだな……。何故あの様な歪んだ見方しか出来ないのか」
 あれ、危機感皆無……? 勇者に寝返られた国王とは思えないのだが。
「ああ……、いつもの事なのだよ。国王代われと言うので執務をやらせてみれば半日で飽きたと匙を投げ、バイトをしてみたいと飲食店に行ったは良いものの、客とトラブルを起こしてクビになり……。今回もすぐに飽きるとは思うが、まぁ……万が一と言う可能性はあるからな。どうしようもない厨二病患者だが、宜しく頼む」
 既に厨二病認定されてたよ。人王から肩の荷が降りたオーラがするのは、気の所為だと信じたい。それにしても酷い言い様だなおい。お前等にも少なからず責任があるって分かっているのか。
 はぁ、まぁ良い。飽きっぽい性格の様だし、暫く任せておけば良いだろう。



「ははっ、跪け! 今日からは俺が魔王だ。道を空けて貰おうか」
 あああ、いきなり好き勝手やってるよあの勇者もとい魔王代理様。配下達のドン引きな表情が面白い。あまりの堂々さに、襲い掛かるのも忘れている様だ。それとも、溢れ出る危険な香りに恐れ戦いているのか。
「あーはいはい、静まれお前等」
 手を叩きながら代理と配下達の間に割り込み、両者を見渡す。これまた様々な目が私を見るが、今はまぁ置いておこう。普段から威厳無くて悪かったな。やっと仕事すると思ったら平和交渉しちゃう魔王様(笑)だからって馬鹿にするなよ。泣いてなどいない。
「かくかくしかじか……で、暫くは代理が魔王をやる事になった。迷惑を掛けん様に」
「は? 世代交代だろう」
 はいはい世代交代ね。何か違うと思いながらもそう言い直し、私は配下達を見回す。ドン引きな目、絶望的な目、現実から目を逸らしている奴も居るな。お前等、代理を喰おうとして逆に喰われるなよ。私の先代達が育てた人材を、易々と失いたくはないからな。



「うっわ、汚ねぇ部屋。正に汚部屋だな」
 私の部屋に入るなり、代理様が一言。汚くはないのだがな。取り易い場所に物を置いているだけだ。隅に埃一つ落ちていないぞ。お前の目は節穴か。などと言える筈も無く。
「……言っておくが、私物を勝手に漁ったりするなよ」
えっ
 えっ……?
 不可解な反応に振り返ると、そこには私のアレやソレやコレやドレを手に突っ立っている代理様の姿が。
「ばっ……馬鹿者、何をしている!」
私物漁り
何食わぬ顔で答えるな!!
 これは流石の私も突っ込まざるを得ないぞ。何を考えているんだこいつは。奪い返そうと飛び掛かるものの、流石は(元)勇者。ひらりとかわされた。
「知らないのか? 勇者は他人の私物を勝手に持って行っても――って、俺魔王だったわ。それなら尚更合法的に窃盗が出来るな」
 窃盗って言っちゃったよこの人!? マジでどんな教育受けて来たんだよ! 一人で納得するな!!
「……それにしても、意外な趣味をお持ちな様で」
 私のアレをまじまじと見ながら、代理様が呟く。もう勝手にしてくれ……などとも言える筈も無く。アレは久しく会わぬ友人から貰い受けた、一番の宝物なのだ。
「返せコラ! 魔界が無法地帯の絶対王制だと思ったら大間違いだ!!」
 と言っても、先代までは無法地帯な絶対王制だったのだがな。時代は変わったのだ。民主主義万歳。
「ふぅん……」
 めんどくさそうにソレをぷらぷらさせ、代理は不敵な笑みを浮かべる。とてもお似合いだ。とても。
「んじゃ、今から無法地帯の絶対王制な」
言うと思ったわ!!
 再び飛び掛かる。かわされる。飛び掛かる、かわされる、飛び…………
「ぐはっ」
 掛かろうとして、積んである本に頭からダイブしてしまった。追加効果で本の雪崩攻撃。痛い。もう私のライフは0よ!
「…………ぷっ」
 そう吹き出した声にムッとして顔を上げると、代理が普通の笑みを浮かべていた。思わず少し見とれ、
「…………キモいな」
 と、正直な感想を述べてしまった。一瞬で代理の眉間に皺が寄る。
「キモいのはお前だ、グズ。いつまで這いつくばっている。踏まれたいのか」
 あー、はいはい。最早、こいつの俺様っぷりにも慣れたな(まだ会ったばかりだが)。俺様じゃない代理は代理ではない。ただの人間だ。
(魔王より魔王してる『人間』……なぁ)
 やや複雑な気持ちで立ち上がり、振り向くと、代理が私のコレを弄んでいた。



「頭突きはねえよ、頭突きは」
 頭から流血しながら、不機嫌そうに代理は呟いた。いつまでも私物を返してくれないので頭に来て、リアルず○き+メガ○ーンをしてやったのだ。初めて無駄に立派な我が角が役に立った気がするぞ。ついでにスカ○アッパーやみだ○ひっ○きもしたかったのだが、まぁ良いだろう。癇癪を起こされたら堪ったものじゃない。
「なら、私の私物に二度と触るな。置いてやるだけ有り難く思うのだな」
 本当は客室にでもブチ込みたかったのだが、代理様が狭いだの汚いだのと仰せになられたのだ。と言っても、ここは私の私室。一人で置く訳には行かぬと、同じ部屋で過ごす事になった。不本意だが、まぁ仕方あるまい。見張りも兼ねれば、暇にはならないだろう。
「それは、暗に出ていけ、と言っているのか?」
 ほぅ、珍しく物分かりが良いではないか。珍しくと言っても、まだ会ったばかりなのだが。旧友だと自分が勘違いしそうだから、敢えて二度言っておく。最初は何だこの化物は、と思ったが、意外案外想定外想像以上に割と多分もしかしてまともなのかも知れなくもない事もなくはないかも知れない。ところで、これは否定か肯定か、どちらだったか。そんな事より。
「当たり前だ!」
断る
 そのくらい 計算済み ですとも!

 かくして、魔王と(元)勇者の奇妙すぎる共同生活が始まった。



「世界ってさぁ」
 気だるそうに、未だに代理な彼は言った。あれから何日が経ったのか、正確な計算はしていないが、飽きっぽいと言われた割に長続きしている。しかも、一応仕事もこなしているのだ。人王の執務を半日で投げ出したと言うのは、デマだったのだろうか。喜ばしい様な、さっさと帰って欲しい様な。
「何でこうも人に優しくないのかね」
「どう言う意味だ?」
 発言の意図を汲めず、私は思わず訊き返す。
「俺みたいな奴が勇者だったり、お前みたいなチキンが魔王だったり。おかしくねえ?」
「チキンは余計だ。その意見には賛同するが」
 自覚はしていても、面と向かって言われると頭に来るものなのだよ。と言うか、勇者向きな性格ではないと自覚していたのだな。
「あぁ……、まぁ、何と言うか、」
 歯切れ悪い代理。誰だお前。私の知ってる代理と違う。おい待て、気まずそうに目を逸らすな。気持ち悪い。本当に気持ち悪い。この前見た笑顔より気持ち悪い。内蔵骨血肉全て丸出しの人間より気持ち悪い。思い出したらもっと気持ち悪くなった。
「お前等全員、クビ。さっさとここから出ていけ」

 は?

「わけがわからないよ」
 思わず口を突くおふざけ。だが、代理はこれっぽっちも笑っていなかった。私からも笑みが消える。
「邪魔なんだよ。城の主は一人で良いし、使えない配下も不要。それだけだ」
「何だそれは! 理由になっていない!」
 代理だろうが世代交代だろうが、魔王は、ここの主は私だ。魔族達は私の配下だ。魔王の交代は、先代が死亡、又は執務困難に陥った場合のみ行われる。その事も私が直々に説明し、奴も渋々ながらも理解の意を示した筈なのだが。
「……もう良い、俺が出て行く」
 時間の無駄だ、と呟き、代理、いや、勇者は部屋を出て行った。本当に何なのだ。飽きた……にしては、唐突過ぎるし、様子がおかしかった。だが、奴を引き留める理由も無い。何故だ。何故私は苛立っている。人間が、それも私の脅威となる人間が目の前から消えた。ただそれだけなのに。



「ごっ、ご報告があります、魔王様!」
 ふと気付くと、配下達の慌ただしい声が聞こえた。何だ、次は人王がこちらにやって来たのか? そう予想しながら、ぼんやりした頭で配下の報告を聞く。
「城外の森にて戦闘発生。多数の被害者が出ております! 相手は人間数名! 恐らく、狙いは魔王様の……」
「あらまぁ……。国からの命令か否かで、対応がかなーり変わるな……」
 平和交渉に赴いてから、そんなに経っていなかったのだがな。話が分かりそうな相手だっただけに残念だ。人王の命令とは限らないが、人数的に考えると、十中八九そうなのだろう。そもそも、私は勇者やその恩恵を受けた者にしか殺せないものだ。奴が手を引いていた、とは考え難いが……。何はともあれ、困った。私が、しかも場合によっては奴と戦わなければならないフラグが成立してしまった。
「そ、それから、もう一つ……ご報告が……」
「まだ何か問題が?」
 おずおずとした配下に目を向け、続きを促す。全く、今日は忙しいな。
「はぁ。あの代理様……いえ、勇者が、我等の同胞と共に戦っ」
 これ以上聞いている暇など無かった。



 ずっと独りだった。皆が、両親でさえ俺を見ていなかった。一人の魔族と出会った。あいつも一人だった。気まぐれに遊んだ。気に入った。ペアのアレを押し付けた。幼い勇者と魔族。引き離された。何も信じられなくなった。旅立った。魔物に出会った。あいつを思い出した。その残像を掻き消す様に、ひたすらにそれを殺した。その到達点にあいつが居た。懐のアレにそっと触れ、獲物を振るった。



 音がする。剣と爪牙、炎と火炎、肉と刃。鎧と皮膚。耳障りだ。私は平和が良いのに。何故奴等は争っているのだ。止めろ。私の平和を乱さないでくれ。
「止めんかっ!!」
 奴が武器を向けられていたので、思わずその間に割り込んでしまった。相手の刃が身体に沈んで――

「貴様……俺の女に触るな!!

 そんなマジギレな声と、物騒な台詞と、人間の悲鳴。わあい。人がゴミの様だ。わあい。ナチュラルに俺の女宣言されてしまったよ。わあい。私なんかよりよっぽど魔王らしいよ勇者。わあい…………。



「いや…………正直すまんかった」
 と、私は様々な意味での謝罪をする。仮にも私は魔王。ただの人間には易々と傷付けられない。先程は流石に焦ったが、傷は一瞬で治ってしまった。一方の勇者は、憮然とした態度でそっぽを向いている。
「……で、先程のはお前なりのギャグか」
「…………は」
 と、勇者は目を点にする。どうやら、何の事か分かっていないらしい。
「あれだ、あれ。俺の女発言だ」
 お約束の沈黙。モクギョの音が聞こえそうだ。

×○■□◇▲※#♂%¢!!

 声にならない悲鳴を上げ、勇者は手足をバタバタさせる。顔も真っ赤だ。面白い奴め。
「だっだっだっ黙れグズ! あれは……その…………昔の話で…………」
「昔?」
 ふむ、面白いネタ……もとい、話が聞けそうだ。今の勇者の顔だけでも、十二分に面白いのだが。内容次第では、先程の無謀な行いも許してやろうではないか。
「…………」
 そっぽを向いたまま、勇者は懐から何かを出す。小さなそれには、見覚えがありすぎた。何故アレがここにある。以前奴に見付けられてから、泥棒対策にといつも持ち歩いて――いる。あれ?
「あーあ、胸糞悪りい。ガキん時に会った魔族の女が、こんなヘタレニートな訳無えよなー。もっと可愛げあったし」
 モクギョ再び。ま、まさかこいつ…………
人間の子供の癖に妙にませてて意地っ張りで一匹狼な割に私に懐いてたアレの贈り主!!?
「そうだよ文句あるかグズ黙れ!!」
 わー、言われてみれば面影あるわー。そうか、だから慣れたとか感じたのだな。今更ながらに納得。それにしても……
「……いつから気付いていた?」
 人王の所で会った時は敵意丸出しで、とても運命の再会()な様子ではなかったのだが。
「……アレ見付けてから」
 何だ、あの時か。言ってくれれば良かったのだがな。まぁ良い。
「……んで、お前はこれからどうするんだ? 仲間だったのだろう」
 魔族に味方して、仲間である人間に武器を向けたのだ。襲って来た奴等も死なない程度に痛め付けて人王の元に連れて行かせてしまったし、隠し立ては出来ないのだが。しかし、張本人様は目を瞬いている。
「……あぁ、さっきの連中か? 何を勘違いしてるのか知らんが、勝手に出しゃばって勝手に俺を頼って勝手に自爆した馬鹿共だ。ほっとけ」
 相変わらず、フラグをへし折るのが大好きですねお兄さん。そう言えば、最初もラスボスフラグをへし折られたなぁ。悪の勇者を倒す魔王って展開を予想していたのに。たまには回収しろよド畜生。中の人も嘆いてるぞ。
「あ……でも、クソジジイんとこには行かないとな」
「帰るのか?」
 いや、と、勇者は首を振る。
「平和がどうこうって話も正式には決まってねえし、勇者辞めるって話もしてないからな」
 え、ちょっ、ちょっと待て。お話が見えないのだが。何故お前がその話をするのだ。てか、勇者を辞め…………えっ?
「忘れたのか? 俺、まだ魔王の座を降りていないぞ」
 あ、まだ有効なのね……。そうだな、辞めるなんて一言も言ってないからな。勇者はドヤ顔で私を指差した。
「これから先譲るつもりも無いし、二度と代理だなんて呼ばせねえからな」



 あれからすぐに、魔界と人間界の間で平和条約が結ばれた。『国王より強い権力を持つ勇者』と、『魔界で一番偉い魔王』の仲もあっと言う間に両世界に広がり、不本意ではあるが、それが両世界の平和を手伝っているのだろうと思う。先日暇潰しがてら人王に会いに行った時も、国民やら人王やら重鎮やらに、生暖かい目で見られたのを覚えている。おまいらな……。魔王にだって、プライバシーの権利はあるのだぞ。
 結局、勇者の勇者辞める宣言は撤回された。流石の奴も、全権限を取り下げられるのは勘弁して欲しいそうだ。
 奴は今、文句を垂れながらも、勇者の務めを果たしている。『魔王の勇者』として評判を得ている、と自慢気に話す薬指には、私のものと同じアレが付けられていた。




部活の無料配布機関誌に掲載したものに、地味ーに手を加えたもの。
印刷は縦書きなので、物凄く違和感あったなぁ……ww

posted by 頼霧 来須 at 19:47| その他、オリジナル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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