2012年07月07日

星に願いを

七夕の夜。




 願いを書いた紙を笹に吊るすと、願いが叶うと言う伝説があるそうだ。所詮は人間の作ったお伽噺、信憑性は無い。
 ただの風習だから――そう自分に言い聞かせながら、真っ白な紙を眺めた。

 こんな簡単に願いが叶うなら、苦労はしない。いつだって誰だって、自分の望みを叶える為にもがいている。赤い煙――ラザリスに頼った者は、自分自身と言う対価を支払っていた。結局、その対価を自分が取り戻し、結果として彼等は無償で願いを叶えたのだが。

 そんな事より、今はこの短冊とやらだ。どうしよう、とルドは頭を抱えた。自分の願いなど、考えた事も無かった。思い返せばいつも他人や世界の事で頭が一杯で、望みはしても、自分の欲望に目を向けた試しが無い。難しく考える必要は無い、簡単な事で良い、とは言われたが、人生初の経験を簡単に済ませる事は、流石の彼にも出来ない。だからこうして、誰も居ない部屋でペンを弄んでいるのだ。
(世界の平和――は、望むのではなく、俺が保つもの……。ヒトの事を知る――など、いつでも出来る……。甘味の撲滅は好きな人が居る以上は論外だろうし、カレーもいつでも…………)
 はぁっと、大きな溜息を吐いた。考えれば考えるほど、ややこしくなって来る。自分が何をしたいのか。何になりたいのか。どうして欲しいのか…………。


 蒸し暑さも手伝ってあまりに集中出来ないので、甲板に出てみた。バンエルティア号は港にその巨体を預け、多数の命を乗せて、静かな波に揺られている。空気中の水分を掻き回す風が吹くと、汗が滲む額がひやりとした。
「……七夕がどうのなど言わなくても、空はいつも綺麗なんだがな」
 そう呟いて、満点の星空を見上げる。普段は自分しか見ていない人間も、この日だけは空を見上げるのだろう。それも、自己の利益を求めての行動なのだろうが。望み、願い、頼る人間を、彼は嫌いにはなれなかった。彼等も自分が護るべき存在。愛する世界の住人だ。何だ、考えずとも、答えはすぐそこにあったじゃないか。
 君は相変わらずだね、と、自分の中に眠る“彼女”の一部が薄く笑った気がした。
「良いんだよ、これで」
 ふっと微笑み、真っ白な短冊に文字を入れた。

 愛する者達に、永遠の繁栄と平和を。



中の人:ざかざか書いたSS。SSが意外と苦手な事に気が付いた←
    カノンノとイチャつく予定が、どうしてこうなった……
posted by 頼霧 来須 at 14:43| マイソロ連作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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