2012年03月21日

とある執事の行動記録(ターグボー)



「……なあ、アル君。それ、ちょっと読んで良い?」
「あ、俺も気になってた」
「面白い事は書いていないけど……それで良ければ

 午前5時。まだ眠っている同室の者達を起こさない様に留意しながら起床し、身支度を整える。髪型から服の皺まで入念にチェックした後、食堂へ。

 午前5時半。コーヒーが沸く頃に、夜間は外を彷徨いているケビン君とアステルさんが帰還。何となく訊いてみたら、ケビン君の身体年齢は24歳だそうだ。てっきり、22歳くらいかと思っていた。アステルさんは二十代後半らしい。この船は、見た目と年齢が一致しない人が多いと感じる。
 二人とフロットちゃんは自称・エルフの様に歳を取らない種族だが、実際は幾つなのだろう。流石に教えてくれなかった。

 愚痴を聞きながらコーヒーを振る舞っている間に、レン君を始めとした早朝訓練組が入って来る。いつも通り、各々の好みに合わせたコーヒーや紅茶を淹れる。今日は全員分を一発で淹れる事に成功。
 と言っても、油断は出来ない。砂糖やミルクの分量を少し間違えるだけでも、ドリンクの味は変わってしまう。
 それと、そろそろ新しいブレンドの開発もしたい。たまには、子供向けのものを作るのも良いかも知れない。

 午前6時。ロックス君と一日の予定を確認しつつ、早めの朝食。今日はフレンチトーストとフルーツヨーグルト。おやつはマドレーヌらしい。お嬢様が食べ過ぎないか心配だ。彼の料理は美味しいが、脂肪分が多過ぎる。ふくよかな女性が好みだと言うのは否定しないが、健康管理にも気を遣って欲しい。成人病にでもなったりしたら、思わず撃ち殺してしまうかも知れない。お嬢様に簡単な討伐依頼を多く回す様に、アンジュちゃんに進言しておこうと思う。

 午前7時。お嬢様とイレーネさんを起こしに行く。今日もお嬢様に押し倒された。行動パターンは掴んだつもりだったが、お嬢様も伊達に大剣を振り回してはいない。不意を突かれたとは言え、あの華奢な身体の、何処にそんな力があるのか甚だ疑問だ。こちらも仕事の合間や依頼先のダンジョンで鍛えてはいるのだが。自信を無くしそうだ。他の男が相手ではないのが、不幸中の幸いか。あのお方が見知らぬ男にスキンシップを図るなど、考えるだけで〈ペンで塗り潰されている〉。贅沢は止そう。傍に居るだけで充分だ。

 午前7時45分。昨日顔を合わせたカトレアちゃんとすれ違う。昨晩の件について謝罪された。彼女の故郷では、太陽が完全に沈んだ状態になる事は無いので、混乱してしまったらしい。白夜の様なものなのだろうか。彼女の気持ちが落ち着いた頃に、ゆっくりと話を聞いてみたい。
 それと昨夜、ルド君が魘されていたと聞いた。ここ最近は気分が悪そうにしていたが、悩みでもあるのだろうか。訊いてみたいが、一昨日の様にあしらわれて終わる気がする。もう少し様子を見てみようと思う。

 午前8時。勤務開始早々、お嬢様に絡まれる。昼休みに遊ぶのを約束する事で解放される。
 そう言えば、カード占いを教えて欲しいと言われていた。丁度良い機会なので、簡単なものを伝授しようと思う。メジャーに、一日の運勢辺りで良いだろうか。それとも、お嬢様も年頃であるし、恋愛運が良いだろうか。
 恋愛と言えば、お嬢様にしつこく言い寄って来る自称・許嫁のあの男は心底迷惑だ。奴が来ると、お嬢様が気分を害される。形式上だけの縁で、今まで碌に顔を見せなかった癖に。散々女遊びをして、贅沢三昧な生活をしている癖に。所詮は金か。遊ぶ事しか頭に無いゴミに、お嬢様を、旦那様の遺産を渡すものか。漸く見付けた居場所を少しでも侵そうものならば、奴の財産を尽きても尚搾り取り、殺さぬ程度に四肢を斬り落とし、闇市に売り飛ばしてくれる。
 いや、それだけでは足りない。死んだ方がマシと言わせるくらいの地獄を味あわせてやろう。肉を少しずつ削ぎ、生きたまま内蔵を抉り取


 パタン。


「あ、うん。どうも。ありがと」
 小刻みに震えながら、アイヴィスは閉じた手帳をアルスに差し出す。いつも暇さえあれば何かを書いているのが気になって中身を見せて貰っていたのだが、途中から始まった呪いの文章に恐怖を覚えたのだ。
日記と言うかレポートだな、と突っ込む気力は、とうに失せた。横で覗き見していたティルの顔も、蒼白になっている。
「だから、面白い事は書いていない、と言ったろ?」
 と、アルスはにこやかに言う。この爽やかな笑顔を振り撒く真面目人間でも、あんなダークな事を平然と書くのだと思うと、人は恐ろしい生き物だと、アイヴィスとティルは改めて実感する。
「じゃあ、俺は買い出しがあるから。失礼」
 扉が閉まり、足音が遠ざかったのを確認し、部屋に残る二人は大きな溜息を吐いた。
「…………ハヤトの兄ちゃん、留守で良かったな」
 と、ティルは出掛けているガルバンゾの司法官を思う。もし彼がこの場に居たら、主に闇市に関する詰問が始まっていただろう。
「そうだな……。しかし、オレは敢えて言う。アル君はどう見てもヤンデレです、本当にありがとうございました」
「何だよ、ヤンデレって……。いや、何となく分かるけどよ」
 冷や汗を拭きながら、ティルは“ヤンデレ”の意味を想像する。恐らく、先程まで読んでいた呪いの文章を実行しかねない様な、異常に独占欲の強い人物を指すのだろう。
「うん、まあ…………忘れよう。闘技場で一暴れして、綺麗さっぱり忘れようぜ!!」
「そうだな! 気晴らしだ、気晴らし!!」

 それから暫くの間、アイヴィスとティルは、アルスに敬語を使う様になったと言う。

* * *


アリ「やっほー! 初めましてだね! 汚れた乙女・アリサこと、アリッサ・フライヘル・フォン・ノッツ・グラデュアス、性別は腐女子! こう見えても18歳でーす☆ で、こっちが俺の嫁の、アル君だよ!」
アル「グラデュアス家で執事を勤めさせて頂いております、アルス・ルーツェ・グラデュアスと申します。称号として、苦労人執事を拝受致しました。本日はこの様な大役に――」
アリ「はい、勤務時間終了〜。アル君、アトガキくらい素で行こうよ!」
アル「……お嬢様がそう仰るのなら。そんな訳で、これから宜しく(微笑)」
アリ「えーっと、自己紹介の後に、話の補足や裏話をすれば良いんだよね? じゃ、押し倒し云々を、今ここで再現しまーす☆」
アル「お、お嬢様? 作品の一般全年齢向け主義を冒す様な真似は控えて下さい……(冷汗)」
アリ「むぅ……、はーい。その代わり、プロレスごっこしよ〜♪」
アル「…………お嬢様。勤務再開時間となりましたので、私はこれにて失礼致します」
アリ「酷っ!(泣)」
posted by 頼霧 来須 at 17:27| マイソロ連作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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