2012年03月21日

散りゆく花


他の世界では、今。






 かつてここは、人々の笑い声が聞こえ、協力して仕事をする姿が見え、暖かなお茶や料理の匂いがした。
(なのに……)

「おい、そっちの術式はまだか!?」
「ああもう、こっちは専門外だって言ってるでしょ!」
「こちらの準備は整いました。攻め込まれるのも時間の問題ですし、急いだ方が良いと思います」

 今は怒涛や悲鳴が聞こえ、怒鳴り合いながら術式を組み立てる姿が見え、煙や何かが焦げる臭いがした。
(どうしてヒト同士が争っているの?)
 発端は分からない。生まれた頃には争いはとうに始まっており、世界は滅亡に向かっていた。そして、今までそれを止める為にここで活動をしていたのだ。
 それが、今では戦場になっていた。不安に怯える自分を、きつい印象の女性が見る。
「ディセンダー、もうすぐ異世界への扉が開く。そうしたら、素早くそこを潜れ!」
「で、でも……」
「アイツ等の狙いは、アンタの力なんだよ! 捕まって利用されでもしたら、それこそ世界は終わりだろ!」
 普段から暢気な少年が力む間も、人間の気配が近付いて来る。もうじき、扉も破られるだろう。
「皆……は、」
「僕達なら大丈夫だよ。僕達が強いって事は分かってるだろ?」
「ん……頑張るのは嫌いだけど、戦う」
 気弱な少年も、いつもぼんやりとしている青年も、それぞれの得物を構えている。二人だけではない。周りに居る全ての者が、戦闘体勢に入っている。

 ――あぁ、自分は何て無責任なディセンダーなのだろう。使命を果たせないどころか、護るべきヒト達に護られているなんて。

 扉が開く音がした。

「何やってんだよ、さっさと行けっつーの!」
「で、でも……」
 夕焼けを思わせる色の少年の声に後退りながらも、チラリと異世界に繋がる空間を見る。暗黒が広がっており、どこか不気味に感じた。やれやれ、と黒いマフラーをした青年が溜息を吐く。
「はーぁ。借りっぱなしは、俺の信念に反するんだよねぇ」
「戦線離脱も、立派な戦術です。躊躇う必要などありませんよ」
「貴女が生き残りさえすれば、世界を再生する事もきっと出来る……。自分と、私達を信じて」
 協調性とは無縁な男も、気の強い少女も、皆が自分を励まし、早く行けと声を掛ける。これ以上この場に留まれば、それこそ仲間達が危険だ。分かっているが、身体が動かない。
「……大丈夫。皆で生きて、必ず迎えに行くから」
 生まれた時からずっと一緒に居た少女が、自分の両肩に手を置いて微笑む。その後ろで、船を攻めて来た人間が武器を振り上げた。
「だからお願い、行って。どこか遠く、安全な世界へ!!」

「あ……」
 少女に押されて亜空間に身を沈ませながら、彼女は目を見開く。何より、誰より大好きなヒトの悲鳴が聞こえた気がした。
「い……や」
 戻らなければ。
 戻らなければ。
 バンエルティア号へ。
 アドリビトムへ。
 仲間達の許へ戻らなければ。
 カノンノの許に――。



「あ……、起きたか?」
 見知らぬ少女を抱えてバンエルティア号との合流地点へ歩いていたルドは、足を止めて彼女の顔を覗き込む。
 任務先で少女が空から降って来た時は少し驚いたが、自分もそうだったと思い出してルドは微苦笑する。どうやらこの世界は、空からヒトを落とすのが大好きらしい。
「―――放して下さいっ!!」
 暫く虚ろな目でルドを見ていた少女は突然悲鳴を上げ、地面から無数の棘を召喚した。幾本かが彼の身体をかする。その隙に立ち上がった少女は、後退りしながらルドを睨んだ。
「っと……」
 丈夫な服で良かったと些か場違いな事を思いながら、ルドは少女を見る。訳も分からず敵意を向けられる事はたまにあったが、やはり納得は行かない。
「何なんですか、どうして船を襲ったのですか! 皆が何をしたと言うのですか! ディセンダーの力を得て何がしたいのですか! 貴方は、貴方達は、自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
「……? ちょっと、落ち着……」
「来ないで!!」
 よく分からない事を捲し立てる少女を宥めようと試みるルドの足元に再び棘を生やし、彼女は涙の浮かぶ眦を吊り上げる。
「これ以上関係の無い人達を傷付けるなら、私も容赦はしませんよ!」
 言っている事の意味は解らないが、どうやら何か勘違いしている様だ、とルドは思った。少なくとも、彼女の言う“船”とやらを襲った記憶は全く無い。話をするには、まずは動きを止める必要がありそうだ。
「だから、少し落ち着け……って!」
 そう叫んだルドは手を広げてドクメントを展開し、少女を囲う様に鋭い突起を召喚した。勿論、傷付ける様な真似はしない。あくまで、動きを止める為だ。
「きゃっ……」
「ご、ごめんな? お前が話を聞いてくれないから……。少し、落ち着いてくれないかな」
 身を竦めた少女の様子を伺いながら、術を解いたルドは続ける。
「俺は、お前の敵じゃないよ。落ち―――いや、倒れていたのを見付けただけだから」
 落ちて来た、などと言い、またおかしな勘違いをされては堪らないと、ルドは言葉を訂正する。その言葉を半信半疑で受け入れながら、少女は警戒を解かずにルドを見る。
「……なら、私をどうするつもりだったのですか」
「ここは危険だから、俺が世話になっているバンエルティア号って船に連れて行こうかな……と」
「バンエルティア号……!?」
 バンエルティア号と聞き、少女の目が見開かれる。間違える筈も無い、アドリビトムの拠点だ。
「それは、申し訳ありませんでした。仲間だとは知らずに……。お気遣いに感謝しますが、あそこは今危険です。貴方は逃げて下さい」
「…………?」
 瞬きをし、ルドは少し考え込む。バンエルティア号とは、たった今任務終了の連絡を取り合ったばかりだ。壮大過ぎる喧嘩が起きていると言う意味にしては、彼女は慌て過ぎている。まさか、そして、またか、とルドは思った。
「…………お前の故郷―――出身世界は?」
「ここ、“フラウ”です。申し遅れましたが、私はカトレアと申します。先程のご無礼、お許し下さい。それから、助けて頂いてありがとうございました」
 やっぱりか、とルドは呟いた。どうやらカトレアと名乗ったこの少女は、フラウと言う世界から飛ばされた事に気付いていないらしい。どうせすぐに気付くのだし、と、ルドは微苦笑を浮かべる。
「気にしなくて良いよ。俺は、ルド。ようこそ、ルミナシアへ」
「…………はい?」
 目を丸くし、カトレアは瞬きを繰り返す。聞いた事の無い地名だ。
「お〜い、ルド〜!!」
「ん、カノンノ?」
「えっ」
 走って来たカノンノを一目見て、カトレアは目を点にした。よく知る顔だが、赤い服と髪飾り、そして髪型は見覚えが無い。声も違う様に感じる。訳が分からない、と、カトレアは頭を抱えた。
「ルドが遅いから、心配して……。その子は?」
「カトレアと言って……、少し訳ありらしくてな」
「そう……。私はカノンノ・“グラスバレー”。宜しくね」



「本当に本当に本当にごめんなさい!!」
 頭が冴え、これまでに起きた事を思い出したカトレアは、バンエルティア号のルド達の部屋で何度も頭を下げる。ルドとの食い違いも、自分の知らぬカノンノの事も、全て合点が行った。扉の前に立つアンジュは、微苦笑しながらその様子を見守っている。
「いや、謝りすぎだよ……。お互いに無傷だったんだろ?」
「うぅ……はい」
 目尻に浮かぶ涙を拭ったカトレアは肩を落とし、レンから受け取った紅茶を啜る。
「そりゃ、気付いたら異世界に居ました……は驚くし、混乱もするよな。分かるよ、すっごく分かる」
 うんうん、と、二度異世界に飛ばされたレンは何度も頷く。
「そう言うものなんだろうな」
 カイル達がやって来た時の様子を思い出し、ルドは苦笑する。しかしそれもすぐに引っ込み、真剣な表情でカトレアを向く。
「……それで、何があったんだ? 襲われた……、とか言っていたが」
「長くなるので、掻い摘んで話しますね?」
 一息置き、カトレアは自分の世界で何が起こったかをゆっくりと話し始める。
「私の世界……フラウは、昔から争いが絶えなかったのです。今も戦争が起きていて、アドリビトムの皆で戦争を止める為に動いていたのです。しかし、ディセンダー―――つまり私を渡せと、人々が襲って来て……。ディセンダーの力を使い、戦いを有利にするつもりなのだと仲間に聞き、騒ぎが収まるまで、一旦私を異世界に逃がそうと話が纏まったのです。それで…………」
 言葉を切り、カトレアは溜息を吐いた。
「私は、ディセンダー失格です。自分の世界を守れず、危険に晒されている仲間を置いて、自分だけ避難して……。きっと、皆無事ではないでしょう。もしかしたら……壊滅しているかも…………」
 涙を滲ませるカトレアの頭を撫でながら、ルドは息を吐く。
「あまり、悲観的にはならない方が良い。どうなっているかは、まだ分からないから」
 そうね、と今まで黙っていたアンジュが頷く。
「出来るなら、私達で手を貸してあげたいんだけど……出来ますか、バースさん?」
 難しいな、と右目が赤く輝いているレンが応える。バースが彼を介して話しているのだ。
「『本調子であろうと無かろうと、私と接点の無い世界に飛ばす事は不可能だ』…………少なくとも、俺一人元の世界に戻せないんじゃあ痛たたた!」
『やかましい…………』
「うふふっ……」
 バースとやらに操られ、自分で自分を思い切りつねるレンに思わず笑い、カトレアはそうですね、と言った。表情が少し明るくなっている。
「皆はとても強いです。そう簡単に負けたり……しませんよね」
 自分に言い聞かせる様に頷き、カトレアは顔を上げた。
「あの、元の世界に戻る方法が見付かるまで、ここに置いて頂いても宜しいですか?」
「ええ、勿論よ。宜しくね」
 アンジュの微笑みに、ありがとうございます、とカトレアは頭を下げる。
「ルミナシアが、異世界を認知している世界で良かった。もし違ったら、信じて貰えていたかどうか……」
「このギルドは、異世界人やディセンダーが1割近くを占めているから。どんなヒトでも大丈夫よ。そこのレン君も、そうだしね」
 アンジュに示され、レンはカトレアに微笑む。
「ああ、最近来たんだ。カトレアもすぐに馴染むと思うよ。良い人ばかりだし」
「はい。宜しくお願いします」
 じゃあ、とアンジュはノートを広げる。
「メンバー登録するね。部屋は……丁度良いし、ここで良いかな?」
「私は構いません」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
「えっ?」
 予想外なルドとレンの反応に、アンジュとカトレアは目を瞬く。
「あ、いや、その……何でも……ない。良いよ」
 歯切れ悪く頷くルドに続き、レンは心配そうにアンジュを見る。
「あの……男二人に女性一人って、危ないとか思わないんですか? 勿論、何もしませんが……」
「なら良いじゃない。大丈夫、不貞を働く人には、厳し〜い罰を与えるから。ねっ♪」
 はい、と縮こまったレンが頷いたのを確認し、アンジュは手続きを再開する。
(また異世界のヒト……か)
 内心で溜息を吐きながら、ルドは何も無ければ良いのだが、と願う。何か暗いものを感じるが、その正体が何なのかを無理に知る必要は無いと、無理矢理に封じ込めた。

* * *


カ「初めまして。儚き花の精、カトレアです。宜しくお願いします」
ク「テレジアの麗しきディセンダー、クルスちゃんでーす! やっほー☆ 久々のアトガキ係だよっ♪」
カ「この係には、順番があるのですか?」
ク「って言うか、その話に関わった人二人かなぁ。ルドは最近出たばっかだから、アタシが〜って感じ? レンは逃げたし(汗)」
カ「それで、すぐに居なくなってしまったのですね」
ク「で、フラウのアドリビトムってどんな感じ?」
カ「えっ? 雰囲気は同じですが……ルミナシアとメンバーは大分違いますね。こちらには知らない方が殆どです。カノンノも、まるで別人ですし」
ク「ほほぅ? んじゃ、そっちのカノンノってどんな感じ?」
カ「カノンノ・ライセントと言って、私のお姉さんみたいなヒトです。ずっと一緒に居たんですよ」
ク「お姉さんカノンノ……会ってみたいかも♪」
カ「はい。いつか、皆さんも招待したいです」
ク「やったー☆ んじゃ、改めてよっろしくぅ♪」
posted by 頼霧 来須 at 17:15| マイソロ連作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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